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 あぁ……。

 手にしたものを見て私は思わず、罪悪感と興奮の入り混じった息を吐きました。

 いけないとわかっていたにも関わらず、私は……お姉様の……お姉様のものを……。

 一旦ベッドへとそれを置き、私は少し震える指先でブラウスの小さいボタンを外していきます。やがて現れたのはささやかな二つの膨らみ。玩具のような布に包まれた私の乳房。

 背中の金具を外し、脱いだブラジャーもベッドに置きます。そして私はこれまでの成果を確かめようと、壁際の姿見を振り返りました。

「あぁ、お姉様……私は……あかりは……少しでもお姉様に近づけましたか……?」


           *           *


 私はときどき寝つきが悪くなる日があります。内に抱えている悩みを頭の中でぐるぐると掻き回していると、今夜はきっと上手く眠れないだろうな、というのがわかるのです。

 そんなときに睡眠導入剤となってくれるのが本でした。登場人物たちに思いを馳せ、彼や彼女たちと壮大な冒険にでかけたり、淡い恋心に胸をくすぐられたり、想像だにしない事件を解決に導いたりとしている間に、頭のぐるぐるはやがて消え、私は夢の世界へと旅立っていきます。

 ですが残念なことに、今私の部屋には到底面白いと呼べる本はありません。授業で使う、無愛想な表紙の教科書に辞書。形だけの分厚い校則書。人によってはそういった書物が好きな方もいるでしょうが、それらで今の私を満たすことなどできないのです。

 なので私は談話室へと赴くことにしました。

 私が寝泊まりしているこの春奏(はるかなで)学院の学生寮には、一階の中央に広い談話室があるのです。そこには北の壁一面に本棚が設けられていて、寮生であれば誰でも自由に閲覧、持ち出しが可能であるため、その中からどれか一冊を今晩のお供にしようと思ったのです。

 現在の時刻は十時四十五分。消灯時間の十一時まであまり時間がありません。そうと決まれば早く行かなければと、私は淡桃色のパジャマのまま個室を出ました。

 廊下は静かです。スリッパの足音は足元の絨毯が幾分か抑えてくれるでしょうが、既に就寝している方がいるかもしれないのでなるべく音が出ないよう注意しつつ、ですが早めに部屋に戻ってこられるようにと私は小走りで進みます。自室がある三階から螺旋階段を下って一階まで下り、階段脇の食堂の扉をすり抜けてその隣の談話室へ。

 一時間早いですが、こうして時間を気にしながら走り抜けていると、まるで自分がシンデレラになったかのような錯覚に陥ります。とは言っても、私には私を追いかけてくる王子様などいないのですが。

 ……えぇ、〈追いかけてくる〉王子様はいないのです。何故なら私の王子様であり私のお姫様は、私の目的地で既に待ち構えていたのですから。

 ぎぃ、と古めかしい扉を開けると、ちょうど正面に本棚が見えます。そして本棚から少し距離を置いてソファやテーブルが設置されているのですが、その方は扉に背を向けたソファに座っていたため、私は最初誰かがこの部屋にいるなどとは思いもしませんでした。

「あぁ、ごめんなさい。もうこんな時間になっていたなんて……すぐ部屋に戻りますので」

 そう言って振り返った彼女は、私の顔を見て少し驚いた表情を見せました。

「あなたは……? 初めて見る顔のような気がするけれども新入生なのかな? ふふ、寮母さんが見回りに来たのかと思って謝ってしまったね」

「え、えっと……私は……」

 返す言葉を考えている内に制服姿の彼女は立ち上がり、私の方へと向かってきます。表情からは既に驚きは消え去り、穏やかな笑みを浮かべていました。

 私が彼女の問に素早く返答できなかった理由。もちろん、消灯時間間際に談話室で誰かと会うなんて、というものも含まれていますが、大部分の理由は別にあります。

 それは、彼女があまりにも美しかったから。私が思い描く、私のなりたい素敵な女性の姿だったから──

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